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行政書士業界を徹底分析!ファイブフォース理論で見る新たな戦略とは?

行政書士業界を徹底分析!ファイブフォース理論で見る新たな戦略とは?

2024.08.04

こんにちは!行政書士の鈴木です。今回は、行政書士業界におけるファイブフォース分析について詳しく解説していきます。ファイブフォース分析は、業界の競争環境を理解し、戦略を構築するために非常に有用なフレームワークです。この記事では、この分析手法を行政書士業界に適用することで、どのように競争力を高め、ビジネスを成功に導くかについて詳しく探っていきます。

 ファイブフォース分析とは?

まずはファイブフォース分析について簡単に説明します。この分析手法は、経済学者マイケル・ポーターによって提唱されたもので、業界内の競争を左右する5つの要因を明確にし、それに基づいて戦略を立てるためのものです。これらの5つの要因は次の通りです。

  1. 新規参入の脅威
  2. 競争業者間の敵対関係
  3. 代替品の脅威
  4. 供給者の交渉力
  5. 顧客の交渉力

「供給者の交渉力」「顧客の交渉力」「競争業者間の敵対関係」という3つの内的要因と、「新規参入の脅威」「代替品の脅威」の2つの外的要因、計5つの要因から業界全体の魅力度を測ります。

それでは、それぞれの要因が行政書士業界にどのような影響を与えているかを見ていきましょう。

 

①新規参入の脅威

 行政書士業界への新規参入は、一定の参入障壁があるため比較的難しいとされています。しかし、最近のデジタル化の進展やサービスの多様化により、新たなプレイヤーが市場に参入するケースも増えてきています。ここでは、新規参入の脅威を以下の観点から考察します。

資格試験と開業資金

まず、行政書士になるためには国家試験(行政書士試験)に合格する必要があります。行政書士試験は難易度が高く、しっかりとした準備が求められます。

他にも、「弁護士有資格者」、「弁理士有資格者」、「公認会計士有資格者」、「税理士有資格者」「公務員行政事務経験者(高卒以上の学歴で17年以上の経験」も行政書士登録が可能であるが、いずれもハードルは高いといえます。

また、開業するためには事務所の開設、行政書士登録費用(30万円程度)、設備投資が必要であり、ある程度の資金が求められます。

これが一定の参入障壁となり、新規参入者を抑制する要因となっています。

オンラインサービスの普及

近年、インターネットを活用したオンラインサービスが急速に普及しています。行政書士の業務も例外ではなく、オンラインでの相談や手続き代行が可能なプラットフォームが増えています。これにより、物理的な事務所を持たない新規参入者も市場に入りやすくなっています。

行政サービスのデジタル化は、急速に普及が進んでおり、各種許認可申請もオンライン申請サービスが進んできました。建設業許可申請、在留資格諸申請、自動車登録など、行政書士の主要業務(案件が多い)でもオンライン申請が普及してきております。

競争の激化:オンライン化により、地方に拠点を置く行政書士事務所でも全国展開が可能になり、競争が激化することが考えられます。

サービスの差別化:オンラインでの利便性を生かしたサービスの提供が重要となり、差別化が求められます。

このように、新規参入の脅威は業界にとって無視できない要素です。既存の行政書士事務所は、自社の強みを生かしながら新たな競争相手に対抗する戦略を考える必要があります。

②競争業者間の敵対関係

 行政書士業界は、多くの事務所が存在し、特に都市部では激しい競争が繰り広げられています。ここでは、業者間の競争がどのように行われているのかを詳しく見ていきます。

市場の成熟度

行政書士業界は成熟市場とされており、急成長の余地は少なくなっています。新規顧客を獲得するためには、他社からの顧客を奪取することが求められるため、価格競争が激化する傾向があります。

価格競争の激化:サービス内容が似通っているため、価格が顧客の選択基準となることが多いです。

差別化の必要性:他社との差別化が難しい状況では、特定のニッチな分野に特化することが重要です。

差別化戦略

多くの行政書士事務所が類似したサービスを提供している中で、他社との差別化を図ることは競争優位を築くための鍵となります。例えば、特定の分野に特化した専門性をアピールすることで、他社との差別化を図ることができます。

また、他のサービスと組み合わせたサービスの提供も考えられます。例えば、オンライン申請を行うために、顧客のパソコンやインターネット環境の設定サービスを行うなどがあります。

専門分野の特化:特定の許認可分野等に特化することで、専門性をアピールし、顧客の信頼を得ることができます。

サービスの多様化:オンライン相談や独自のサービスパッケージを提供することで、他社との差別化を図ることができます。

このように、競争業者間の敵対関係は行政書士業界において重要な要素であり、事務所間の競争を勝ち抜くためには差別化戦略が不可欠です。

③代替品の脅威

行政書士が提供するサービスには、他の専門職(他士業等)や自動化されたソフトウェアが代替品として存在します。ここでは、代替品の脅威について詳しく見ていきます。

他の専門職の存在

行政書士が取り扱う業務の中には、弁護士や税理士といった他の専門職が代行可能なものもあります。これらの専門職が行政書士の業務と重複することがあり、代替品としての脅威を感じることがあります。

また、業界向けのコンサルタントなども脅威となることがあります。例えば、医療機器や薬品に関する許認可申請の場合、医療コンサル会社などが、許認可の支援を行うことが考えられます。派遣会社や職業紹介事業者が、外国人の就労系在留資格のコンサルを行うことも考えられ、行政書士を下請けのように扱うことが考えられ、買いたたきにあうことも予想されます。

弁護士や税理士等との競合:特に法人向けの法務サービスでは、弁護士、税理士、司法書士等が競合相手となるケースが多いです。

専門性の差別化:他の専門職にはない特有のサービスを提供することで、差別化を図ることができます。

IT技術の進化

近年、IT技術の進化により自動化された手続き代行ソフトウェアが登場しています。これにより、簡単な手続きについてはクライアント自身がソフトウェアを利用して処理するケースが増えています。

オンラインツールの利用:手続き代行ソフトウェアを活用することで、手続きの効率化を図ることが可能です。

競争優位の確立:IT技術を活用した新たなサービスを提供することで、競争優位を築くことができます。

このように、代替品の脅威は行政書士業界においても影響を及ぼしており、新たな技術やサービスの導入が必要となっています。

④供給者の交渉力

行政書士業界では、情報やシステムの供給者が重要な役割を果たしています。ここでは、供給者の交渉力について考察します。

法律情報の提供者

行政書士は、法改正や新しい法律情報に常に注意を払う必要があります。特に、専門的な法律情報サービスを利用する場合、情報提供者との関係が重要です。

行政の情報は、インターネット上で閲覧ができますが、検索ではひっかからない、行政のホームページにアクセスしなければ見つからない情報などもあります。行政書士会は、各行政機関に情報公開請求などを行い、許認可に関する情報の収集に努めていますので、情報の取得は大切になります。

法律情報の重要性:最新の法律情報を迅速に取得することが業務の質を向上させる要因となります。

情報サービスの利用:専門的な法律情報サービスを活用することで、法務の効率化を図ることができます。

ITシステム提供者

業務効率化のためにITシステムを導入することが一般的です。特に、独自システムを開発する場合、システム提供者との交渉が重要なポイントとなります。MicrosoftやGoogle等のITサービスに依存する場合、サービス提供者のいいなりとなってしまい、業務の見直しなどを迫られる危険性もあり、サービスを使い分けることも重要になってきます。

システム導入の効果:ITシステムの導入により、業務プロセスの効率化が図れます。例えば、顧客管理システムや文書管理システムを活用することで、業務の効率性を高め、サービスの質を向上させることができます。

ITシステム提供者との関係:信頼できるシステム提供者との良好な関係を築くことが重要です。これにより、最新技術を迅速に導入し、他社に対して競争優位を保つことが可能になります。また、システム提供者が提供するサポートやトレーニングも、システムの効果的な利用において大きな役割を果たします。

行政書士業界では、供給者の交渉力が業務の質と効率性に直接的に影響を与えます。そのため、適切な供給者選びと、供給者との良好な関係構築が成功のカギとなります。

⑤顧客の交渉力

最後に、顧客の交渉力について考えてみましょう。行政書士業界の顧客には、法人と個人が存在しますが、それぞれの交渉力には異なる特徴があります。顧客のニーズを理解し、どのように対応するかを考えることが重要です。

法人顧客の交渉力

法人顧客は継続的な業務依頼をすることが多く、契約期間が長い場合が多いため、交渉力が高いです。以下の点に注目してみましょう。

契約の長期性:法人顧客との契約は通常長期間にわたるため、安定した収入源となる一方で、契約内容の見直しや価格交渉が頻繁に行われる可能性があります。法人顧客は複数の行政書士事務所から見積りを取ることが多く、価格競争が生じることがあります。

サービスのカスタマイズ:法人顧客は個別のニーズに応じたサービスを求めることが多く、カスタマイズされた対応が求められます。例えば、特定の業界やビジネスプロセスに特化したサービスを提供することで、法人顧客の期待に応えることができます。

個人顧客の多様性

個人顧客は、法人顧客と異なり、ニーズが多様であり、価格に敏感な場合が多いです。以下の点を考慮することが重要です。

価格に敏感な顧客:個人顧客は、特に価格に敏感であることが多く、他の行政書士事務所との比較を行うことが一般的です。価格設定とサービス内容のバランスが、顧客の選択に大きな影響を与えます。

多様なニーズへの対応:個人顧客のニーズは多岐にわたるため、それぞれのケースに応じた柔軟な対応が求められます。例えば、ビザ申請や相続手続など、個別の状況に応じた専門的なアドバイスを提供することが重要です。

顧客の交渉力は、行政書士事務所が提供するサービスの質や価格に直接影響を与えます。顧客との信頼関係を築き、顧客の期待に応えるための努力が不可欠です。

ファイブフォース分析による行政書士業界の戦略構築

以上の5つのフォースを理解することで、行政書士業界における競争環境をより深く理解することができます。では、この分析を基にどのように戦略を立てるべきか、具体的なステップを考えてみましょう。

①新規参入に備える

新規参入者の脅威に備えるためには、既存の事務所は次のような戦略を考える必要があります。

ブランド構築:顧客に信頼されるブランドを構築することで、競争優位を維持します。口コミやオンラインレビューを活用し、顧客満足度を向上させることが重要です。

技術の導入:新しい技術を取り入れ、業務の効率化と顧客サービスの向上を図ります。例えば、オンライン相談の導入(Zoomなど)や自動化ツール(RPAなど)を活用することで、業務効率を高めることができます。

②競争業者との差別化

競争業者間の敵対関係に対応するためには、他社との差別化が重要です。

専門分野への特化:特定の業務分野に特化することで、他社との差別化を図ります。例えば、外国人ビザや相続手続に特化したサービスを提供することで、専門性をアピールできます。最低でも2つの専門分野があると、片方の専門分野の仕事がなくなっても、もう片方の分野でカバーできるので、リスク分散ができます。

顧客サービスの強化:優れた顧客サービスを提供することで、顧客ロイヤルティを高めます。迅速な対応や丁寧なコミュニケーションが顧客満足度を向上させます。

③代替品の脅威に対抗

代替品の脅威に対抗するためには、他の専門職や自動化ソフトウェアとの差別化が重要です。

独自のサービス提供:他の専門職にはない独自のサービスを提供することで、顧客に選ばれる理由を明確にします。例えば、許認可申請の圧倒的ノウハウの提供、顧客やユーザーの属性や行動履歴などのデータを分析し、その個人に適したサービスやコンテンツを提供する等が有効です。

IT技術の活用:IT技術を活用した新たなサービスを導入し、競争力を強化します。例えば、オンラインプラットフォームを通じた手続き代行や情報提供を行うことで、顧客に利便性を提供します。

④供給者との協力関係構築

供給者の交渉力を理解し、良好な関係を築くことが重要です。

信頼できる供給者選び:信頼性の高い法律情報サービスやITシステム提供者を選ぶことで、業務の質を向上させます。供給者との長期的なパートナーシップを構築し、最新の情報や技術を活用することが大切です。

コスト管理:供給者との交渉を通じて、コストを適切に管理し、利益率を維持します。複数の供給者からの見積もりを比較し、最適な選択を行うことが重要です。

⑤顧客ニーズの把握

顧客の交渉力を理解し、顧客ニーズに応えることが成功の鍵です。

顧客フィードバックの活用:顧客からのフィードバックを積極的に収集し、サービス改善に活かします。アンケート調査や顧客インタビューを通じて、顧客のニーズや期待を把握することが重要です。

個別対応の強化:個別の顧客ニーズに応じたサービスを提供し、顧客満足度を向上させます。特に法人顧客にはカスタマイズされたサービスを提供することで、長期的な関係を築くことが可能です。

まとめ

ファイブフォース分析を活用することで、行政書士業界における競争環境を総合的に理解し、効果的な戦略を構築することができます。業界内の新規参入者や競争業者、代替品、供給者、顧客の交渉力を考慮した上で、自社の強みを最大限に活かした戦略を立てることが重要です。

特に、デジタル化やIT技術の進化が進む現代においては、デジタル化やIT技術の進化を活用することが、行政書士業界の競争力を高める鍵となります。新しい技術やサービスを導入し、顧客にとっての利便性を追求することで、他の事務所との差別化を図ることが可能です。また、顧客ニーズの多様化に対応するために、柔軟な対応力と専門性を兼ね備えたサービス提供が求められます。

今後の展望と戦略

ファイブフォース分析を通じて得られた知見をもとに、行政書士業界での成功を目指すための具体的な戦略をいくつか挙げてみます。

①デジタル戦略の強化

オンラインプラットフォームの活用: デジタル化が進む中、オンラインプラットフォームを活用して顧客とのコミュニケーションを強化します。特に、リモート相談やオンライン契約の導入は顧客の利便性を大幅に向上させるでしょう。

自動化ツールの導入: ルーチン作業を効率化するために、手続き自動化ツール(RPAなど)を導入します。これにより、時間を節約し、より付加価値の高い業務に注力することが可能になります。

デジタルマーケティングの活用: SEO対策やSNSマーケティングを駆使して、オンラインでの集客を強化します。特に、動画コンテンツやブログを通じて専門知識を発信することで、ブランドの信頼性を高めます。

②ニッチ市場への特化

特定分野への専門化: 競争が激化する市場において、特定のニッチ分野に特化することで競争優位を築きます。例えば、外国人ビザ申請や特定業種向けの法務支援など、他社が提供していないサービスを展開することで独自性を打ち出します。

専門知識の蓄積と発信: 特化した分野の専門知識を蓄積し、それをブログやセミナーを通じて発信することで、専門家としての地位を確立します。これにより、顧客からの信頼を獲得し、他社との差別化を図ります。

③顧客体験の向上

カスタマイズされたサービスの提供: 顧客一人一人のニーズに応じたカスタマイズされたサービスを提供し、顧客満足度を高めます。特に、法人顧客に対しては、業種や企業の特性に応じたアドバイスを行い、長期的な関係構築を目指します。

顧客フィードバックの活用: 顧客からのフィードバックを基にサービスを改善し、顧客の期待を上回る体験を提供します。定期的なアンケート調査や直接のヒアリングを通じて、顧客の声を反映させることが重要です。

④コスト管理と効率化

業務プロセスの見直し: 現行の業務プロセスを見直し、効率化を図ります。例えば、ITシステムの導入による書類管理の自動化や、チーム内の役割分担の明確化など、無駄を削減する工夫が必要です。

スケールメリットの活用: 大規模なプロジェクトや法人顧客をターゲットにしたビジネス展開を行い、スケールメリットを生かしたコスト削減を実現します。

⑤業界ネットワークの構築

専門家との連携: 弁護士や税理士など、他の専門家とのネットワークを構築し、共同で顧客にサービスを提供することで、総合的な法務支援を行います。これにより、顧客にとってワンストップで問題解決ができる体制を整えることができます。

業界団体への参加: 業界団体への参加を通じて最新の法律情報や業界動向を把握し、業務に反映させることで、競争力を維持します。定期的な勉強会やセミナーへの参加も有益です。

まとめ

行政書士業界におけるファイブフォース分析は、業界の競争環境を理解し、戦略を立てるための強力なツールです。新規参入者や競争業者、代替品、供給者、顧客の交渉力を考慮した上で、自社の強みを最大限に生かした戦略を構築することが求められます。

特に、デジタル化の進展に伴い、IT技術の活用がますます重要となってきています。オンラインプラットフォームの導入やデジタルマーケティングの強化を通じて、顧客にとっての利便性を高めることが可能です。また、特定分野への特化やパーソナライズされたサービス提供を通じて、他社との差別化を図ることができます。

今後の行政書士業界においては、これらの戦略を効果的に実施することで、顧客の期待に応えるだけでなく、業界内での競争優位を確立することが可能です。常に市場の動向を把握し、柔軟な対応を行うことで、ビジネスの成功を実現しましょう。

この記事が、行政書士としての戦略構築において参考になれば幸いです。今後も業界の動向や最新のトピックスに注目し、継続的に情報を発信していきますので、ぜひお楽しみに!

鈴木 篤

特定行政書士。合同会社法テック代表社員の鈴木です。実務のスペシャリストの行政書士を育てることが日本社会の発展に貢献するとの思いから行政書士カレッジを運営しています。