行政書士カレッジ ブログ 行政書士

行政書士が依頼を受けてはいけない相談者

行政書士が依頼を受けてはいけない相談者

2023.11.22

行政書士は、許認可申請や権利義務、事実証明に関する書類作成の専門家です。行政書士業務の相談を受けますが、受け入れてはならない依頼について紹介します。

 まず、行政書士は行政書士法において依頼に応じる義務が明記されています。したがって、依頼を断ることが適切かどうかを理解する必要があります。

行政書士法 第11条(依頼に応ずる義務)
行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない。

行政書士法 第23条第1項(罰則)
第九条又は第十一条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。

行政書士法施行規則 第8条(依頼の拒否)
行政書士は、正当な事由がある場合において依頼を拒むときは、その事由を説明しなければならない。この場合において依頼人から請求があるときは、その事由を記載した文書を交付しなければならない。

 依頼を断るべき例

申請要件に満たない業務

申請要件に満たない場合、依頼を断ることができます。ただし、役所に確認をしなければ要件を満たすかわからない場合、依頼者に説明し、要件調査として受任します。

要件調査は、行政書士がどの部分が問題なのかを整理し、立証資料などを揃え上で窓口に相談をいたします。なお、許認可によっては、事前相談で十分な回答を得られないこともあります。外国人の在留資格申請については、出入国在留管理局も明確な回答をしませんので、申請してから結果を待つということになります。

嘘の内容が含まれる書類の作成

相談で話を聞いている際に、嘘の内容を盛り込んだ申請を依頼された場合は、依頼を断ることができます。行政書士は、嘘の申請に関与してはなりません。もし、嘘の事実がわかった場合は、正直に申請をするように勧めます。ただし、嘘をつかれても相談に乗るか、断るかは、ケースバイケースになりますので、各行政書士の判断になります。

依頼者が本人ではない

依頼者の本人確認ができない場合は、依頼を拒否すべきです。特に個人の場合は、本人確認が必要です。会社の場合は原則会社代表者からの依頼を確認することが求められます。

行政書士は、法的手続きを行う場合が多いです。依頼者が本人でない場合、法的手続きや文書作成などの業務遂行に支障が生じる可能性があります。このため、本人でない依頼者の場合、行政書士が適切なサービスを提供できない場合があります。

また、行政書士は依頼者の権利や個人情報を適切に保護する責務があります。本人でない場合、権利や情報の保護に関するリスクが高まる可能性があります。これは、行政書士が個人情報を扱う際に遵守しなければならない法的規制に関連しています。

受任案件が立て込んでおり納期までに業務を終えることができない

行政書士は、原則、依頼の順序に従って業務処理を行わなければいけません(行政書士法施行規則第7条)。そのため、依頼が立て込んでおり、依頼者の希望する期日までに手続きができないのであれば、依頼を断ることになります。これは、依頼を拒否する正当事由に含まれると考えられます。

行政書士法施行規則第7条(業務取扱の順序及び迅速処理)
行政書士は、正当な事由がない限り、依頼の順序に従つて、すみやかにその業務を処理しなければならない。

自身が体調不良

体調不良により一時的に業務を断ることができます。ただし、数日程度で回復が見込まれる病気に限ります。長期の休暇については業務継続が難しいため、廃業届を提出する可能性があります。

必要な書類を提供してもらえない

依頼者から必要な書類が提供されない場合、業務を進めることができないため、依頼を断る必要があります。ただし、依頼者が書類の必要性を理解していない可能性もあります。その場合は、行政書士が十分な説明を行い、依頼者が提供する必要な書類を理解できるようにする努力が求められます。それでも書類提供がない場合は、依頼を断る理由となります。

見積りに納得しない

依頼者が提示された見積内容に納得しない場合は、受任が難しいです。この場合は、報酬面で契約に至らなかった場合は、民法上の契約不成立と考えられるため、行政書士法上の依頼を断る正当事由には該当しないと考えられます。

見積内容の納期限により契約不成立となった場合は、前述した、業務取扱の順序の理由によることが考えられます。行政書士法上の正当事由に該当し依頼を断る場合で、依頼者が書面を要求してきたら、依頼を断る理由を説明した文書の交付をする必要がありますので注意してください。

行政書士業務委任契約の内容を承諾しない

依頼者が行政書士業務委任契約内容に同意しない場合、依頼を断るべきです。

特に損害賠償などの内容については、行政書士事務所運営上とても大事なことです。この記事では詳しく説明しませんが、行政書士業務委任契約書に必ず明記したい内容です。

高圧的な態度をとる

依頼者が高圧的な態度をとる場合、信頼関係構築に支障をきたす可能性があるため、依頼を断るべきです。依頼者の協力がなければ、業務を進めることはできません。対等な立場でのコミュニケーションが必要です。

連絡が取れない

依頼者と連絡が取れない場合は、業務を進めることが難しくなります。行政書士業務委任契約書には、必ず連絡が取れない場合の措置を明記することが重要です。

受任した案件で、連絡が取れず放っておいたら許可の期限が切れてしまったとなっては大変です。そうなると、行政書士が責任追及され、損害賠償請求をされることも考えられます。

行政書士側も、連絡をした記録を残しておくことで、損害賠償請求や懲戒処分を避けることにつながります。

遠方からの依頼であり、移動が難しい

遠方からの依頼で移動が難しい場合、行政書士の業務遂行に支障をきたす可能性があります。オンライン手段を活用することができる場合もありますが、業務によっては移動が必要な場合があります。

現在、オンライン会議システムを利用すれば、世界中の方と簡単に連絡が取れるようになりました。オンライン上でやり取りをして、メールや郵送等を利用すれば、業務を行うことも可能となりました。電子申請化が進んでおり、今後はこのようなオンライン上でのやりとりを基本とした業務が増えていくでしょう。

しかし、現地確認や、窓口での事前相談や申請が必要という業務は残っています。その際に、移動距離が多いことは、依頼を断る理由になってきます。どこまでの距離なのかというのは明確にはございませんが、最低でも事務所所在地の都道府県内で、距離を理由に断ることは難しいと思います。ただし、北海道については例外かもしれません。その場合は、行政書士会や対応可能な行政書士の連絡先を教えるなどの対応は必要かと思います。

依頼を断れない場合

専門外の仕事

行政書士の多くは専門業務を絞って営業しています。しかし、行政書士は、原則依頼に応じる義務が法定されています。これは、「行政書士の独占業務を認めているのだから、行政書士業務は、行政書士が行いなさい」という理由だと考えられます。行政書士以外の者が業務を行えないのであるから、仕方がないと思います。

しかし、実際は、行政書士業務はたくさんの種類があります。大きく分けると、許認可業務、市民法務となります。例えば、相続を専門に行う行政書士が、専門外の在留資格申請を受任するか。この場合、依頼者に、自身がこの業務に精通をしていないこと。もし依頼する場合は、調べながら業務を行うこと伝え、それでもお願いしたいという場合は、受任することになります。しかし、実際は失敗する可能性が高いと判断した場合は、他の専門の行政書士を紹介することで対応いたします。結局は、依頼者が許可を得ることの最善策を考えた行動を行うのが大事です。

なお、一つの手続きから派生して、複数の業務が絡むということは多々あります。許認可申請と会社設立などは典型です。その中で、自身ができることは自分で行い、専門外や他士業業務は、外注するなどで対応すると良いでしょう。

依頼者の態度が嫌だ

気持ちはわかりますが、依頼者の態度のみを理由に断ることは難しいと思います。態度が嫌だというのは、行政書士の主観であり、判断が分かれることであり、これを行政書士法上の依頼を断る正当事由に当てはめるのは難しいと思います。

しかし、この態度が高圧的であったり、嘘をついたりと、行政書士との信頼関係構築に及ぶものであれば、依頼を断る理由に該当する可能性があります。

仕事が面倒臭い

仕事をするのが面倒だからといって断ることはできません。その場合は、行政書士を廃業することにつながります。ただし、面倒な理由が何かを明らかにし、依頼者側の問題(証明書類が揃わない。連絡がつかない。など)であれば、依頼を断る理由に該当してきますので、面倒な理由を明らかにしましょう。

もし、仕事をあまり多く受けたくない場合、営業曜日と時間をきっちり決めて、その範囲内で業務を行うということを徹底すれば、業務処理の順序と迅速処理を理由に断ることができると思います。ただし、副業で週1日2時間などという場合は、行政書士登録はできますが、個人開業には向かないと思います。

まとめ

行政書士が依頼を行政書士が依頼を断る際には、行政書士法の規定に沿い、依頼内容や状況に応じた適切な説明と対応が求められます。依頼者が他の専門家や組織から適切なサポートを受けられるよう、必要に応じて紹介や案内を行うことも行政書士の責務の一つです。

全ての依頼者に公平かつ丁寧に対応するため、行政書士は依頼を断る際に慎重かつ誠実に行動することが肝要です。また、依頼内容や状況に柔軟に対応する姿勢も大切です。

行政書士カレッジ 編集部

行政書士カレッジでは、行政書士の実務に関する教材や書式を販売しています。また、行政書士事務所開業や実務に関する情報を「「行政書士開業ガイド」やYouTube等にて発信しています。行政書士実務講座は、事務所や自宅でいつでも学べるオンライン受講形式。法人設立業務、入管業務、補助金申請業務、帰化許可申請業務など。