令和4(2022)年度の行政書士試験の合格発表が2023年1月25日にありました。
【2022年度行政書士試験の結果概要】
- 申込者数:60,479人
- 受験者数:47,850人
- 合格者数:5,802人
- 合格率:12.13%
合格率は、例年と同様10%を少し超える程度です。極端に低いわけではないのですが、相変わらず「難関」の国家資格試験ではあると言えます。
この難関国家資格試験である行政書士試験を見事突破したのはもちろん素晴らしいことですが、資格は「取得して終わり」ではありません。
次に進む「道」としては、
- 行政書士としていきなり独立開業する(個人事務所を構える)
- どこかの行政書士事務所に就職する(実務の経験をする)
- 司法書士試験や社会保険労務士試験などの他資格試験にチャレンジする
- 今勤めている会社などで行政書士試験合格のスキルを活かす
などの選択肢があると思います。
それらの「道」の中でも、今回は行政書士試験合格直後に多くの合格者が検討する「行政書士事務所への就職」について書きます。
行政書士事務所への「就職」とは?
一般的な企業への就職についてはイメージしやすいと思います。主に大学生が就職活動をして、希望する会社などに正社員や契約社員として就職するのが一般的ではないかと思います。
では、行政書士事務所への「就職」はどんな感じでしょうか?
一般的な企業への就職とは異なり、行政書士事務所に「正社員」として就職するというイメージは、行政書士試験合格直後の方ですとなかなかしにくいのではないかと思います。
そもそも、行政書士事務所に行政書士として就職すればいいのか、行政書士にはならない状態で就職すればいいのか、そのあたりもはっきりしないのではないでしょうか。
今回は、行政書士事務所への「就職」について、主な就職形態を3つ挙げたいと思います。
【パターン①】行政書士事務所の「使用人行政書士」として就職する
この「使用人行政書士」という言葉は聞き慣れない言葉かもしれません。使用人行政書士とは、簡単に言えば「行政書士登録をした者で、行政書士事務所に雇用されて働いている人」ということです。
使用人行政書士は「行政書士」登録が必要であり、日本行政書士会連合会の会員名簿に掲載され、行政書士証票(資格者証)や行政書士徽章(バッジ)などを身につけることができます。また、雇用されていますので、ほとんどの場合、固定給があり、一定の収入を得ることができます。
行政書士登録をするには登録費用が20万円~30万円必要です(登録予定の都道府県行政書士会によって登録費用に違いがある。)
使用人行政書士は、あくまでも雇用主となる行政書士事務所の所長の名前で行政書士業務を行いますので、使用人行政書士自身の名前で役所などに申請などをすることはできません。
行政書士事務所も設けることができません。あくまで、ボス行政書士の事務所で働くというスタンスです。
【パターン②】行政書士事務所の「補助者」として就職する
使用人行政書士ではなく、「補助者」として行政書士事務所に就職するという選択肢もあります。使用人行政書士と補助者との最大の違いは、「行政書士登録をしているか否か」です。
使用人行政書士はあくまでも「行政書士」ですので、行政書士登録自体はしているのですが、補助者は行政書士登録をしていません。
行政書士登録をした者が補助者として行政書士事務所に就職することはできません。ただし、補助者にも専用のバッジがあって、行政書士のバッジは金色ですが、補助者のバッジは銀色です。
補助者は確かに行政書士ではないのですが、それでも行政書士が補助者を採用する場合は行政書士会に届出をする必要がありますので、補助者も一定の身分を持った者と言えるでしょう。
また、一般的なパート又はアルバイトとして採用された場合に比べて、補助者はより行政書士実務の現場に近いところで仕事をすることができます。申請書類を作成したり、申請窓口に行ったりするなど、実務経験をすることが多いのではないかと思います。
ただし、簡単な書類作成を定型的に行うだけの可能性もあります。この場合は、何年やっても行政書士業務の経験を積むことは難しいと思います。
【パターン③】行政書士事務所のパート又はアルバイト(事務員)として就職する
行政書士事務所のパート又はアルバイト(事務員)として就職するという選択肢もあります。これは、一般的なパート又はアルバイトの形態とほとんど同じで、多くの場合、給料は時給換算されるかと思います。
また、使用人行政書士と補助者に比べて、パート又はアルバイトの場合は行政書士事務所の一般的な事務作業(請求書や領収書などの作成、経費管理、資料整理など)に従事する機会が多くなるかと思います。
なお、行政書士や補助者登録していない事務員の場合、行政書士が作成する申請書類や契約書などは作成することができません。
行政書士事務所に就職することは簡単なことではない?
行政書士事務所に就職するパターンとして、使用人行政書士、補助者、パート又はアルバイト(事務員)という主な3つのパターンを挙げました。
では、そもそも行政書士事務所に就職することは簡単なことなのでしょうか?
結論から言えば、「決して簡単なことではない」です。なぜなら、そもそも行政書士事務所は一般的な企業よりも従業員の数が少なく、所長である行政書士一人で事務所を経営していたり、従業員を入れて数名で行政書士事務所を経営していたりすることがほとんどだからです。
元々行政書士事務所で数千万円とか数億円とかの売上があることはほとんどなく、行政書士事務所の所長一人で何とか切り盛りできたり、既存の数名の従業員がいれば何とかなるという行政書士事務所も少なくなかったりします。
このような事情から、一般的な企業に比べて行政書士事務所の職員募集の機会もそこまで多くはなく、どこかの行政書士事務所に就職したくても「就職の機会は限られている」のが現状です。もし、大手の行政書士法人などで行政書士や補助者、パート、アルバイトなどの募集があったとしても、そのような大手の行政書士法人であれば応募してくる人数も結構な数になりますし、大手とはいえども募集人数は数名程度であることが多いので、必然的に競争も激しくなるでしょう。
行政書士事務所への就職を希望する場合は、日々求人情報などの収集に努め、求人の機会を逃してしまわないようにしなければなりません。
行政書士事務所に就職するべき場合と就職するべきではない場合
確かに行政書士事務所に就職することは簡単なことではありません。でも、行政書士試験合格直後は、「今後どのようにして行政書士実務を覚えていけばいいのか?」や「行政書士としていきなり独立開業するのは正直不安だ」などの不安や悩みなどが尽きないのではないかと思います。可能であればどこかの行政書士事務所に就職して、そのうえで行政書士実務を覚える(修業する)機会があればいいと思う方も少なくはないと思います。
では、どのような場合は行政書士事務所に就職するべきで、どのような場合は就職するべきではないのでしょうか?
まず、ごくごく当然のことなのですが、行政書士として独立開業し、個人事務所を経営していくつもりもなければ自信もない(≒責任が持てない)と強く思っている場合は、行政書士事務所への就職を選択するべきです。個人の行政書士事務所を構えるということは、すなわち「所長として全責任を負う」ということに他なりません。そのような想いも覚悟もない場合には、行政書士として独立開業するべきではなく、それでも行政書士の仕事に携わりたいのであれば、行政書士事務所への就職を選択するべきです。
一方で、これは意見が分かれるところかもしれませんが、「近い将来行政書士として独立開業したいという想いが強いものの、最初のうちはどこかの行政書士事務所で使用人行政書士又は補助者として働きたい」と強く思っている方は、個人的には行政書士事務所に就職するべきではないと思います。
もちろん、最初のうちは自分一人で行政書士の仕事を受任するのは不安だらけであり、可能であればどこかの行政書士事務所で修業をしたいという気持ちはよく分かります。また、せっかく難関国家資格である行政書士の試験を突破したのですから、いつかは行政書士として独立開業したいという想いもよく分かります。
でも、就職先の行政書士事務所の所長の立場に立ったときに、使用人行政書士又は補助者として来てくれた方にはできる限り長い期間働いてほしいと思われることが多いのではないでしょうか?もちろん、「うちの事務所で一定期間修業して、いずれは独立してもいいよ」と言ってくれる所長もいなくはないですが、それは正直稀なのではないかと思います。行政書士事務所の既存顧客の個人情報の問題もありますし、既存顧客を奪われてしまうという懸念もあるでしょうし、行政書士事務所特有の「ノウハウ」もできれば秘密にしておきたいでしょうし、雇用した方への「教育」にかけた費用というのもばかにならないはずです。
こうした諸々の事情を考えると、明らかに独立志向が強く、修業目的のみで行政書士事務所への就職を希望する場合には、行政書士事務所への就職をするべきではないのではないかと考えます(それでも就職先の所長が歓迎してくれるのであれば別ですが)。
行政書士事務所に就職する場合に気をつけるべきこと
では、行政書士試験に合格したあとに、色々と悩み、検討した結果、行政書士事務所に就職するという選択肢をとった場合に気をつけるべきことを挙げます。
それは、使用人行政書士・補助者・パート・アルバイト(事務員)のどの形態で働くとしても、また、行政書士事務所で長期間所長のために尽くす(≒忠誠を誓う)かそうでないか(≒いずれは独立開業をするので、一旦は修業をさせてもらう)にかかわらず、まずは「組織の一員として組織のために働く」という意識を持つべきだということです。
いずれは独立開業をするという条件で採用された場合でも、雇用されている期間は当然ですがその行政書士事務所のために「尽くす」ことが必要です。自分自身の行政書士実務の修業のためとはいえども、雇用されている間は露骨にその想いを打ち出すべきではありません。所長の指示のもと、その行政書士事務所の安定的な顧客の確保と売上の増加に寄与するという目標を持つべきです。
ですので、「自分は使用人行政書士・補助者・パート・アルバイト(事務員)だからといって責任はないんだ」と考えるべきではなく、きちんと責任を持って行政書士事務所の仕事に従事するべきです。中途半端な気持ちで仕事をしていると、行政書士事務所に迷惑をかけるだけではなく、自分自身の将来のためにも決してならないでしょう。
まとめ
今回は行政書士の「就職」事情について書きました。どこかの行政書士事務所に就職するということは、思いの外簡単なことではないと思います。行政書士試験に合格した後にまずするべきことは、「徹底した情報収集」です。行政書士業界におけるいわゆる「デマ」のようなものに一喜一憂しないで、世の中に出回っている様々な情報を自分自身で取捨選択し、今後自分自身が進むべき「道」についてきちんと吟味していきましょう。
そのうえで、行政書士事務所に就職するという選択肢をとった場合は、自分自身がやってみたい行政書士実務は何か、その行政書士事務所の所長との相性はどうか、面接時に自分自身が希望する就業条件などを所長が承諾してくれるかなどをきちんとクリアにしておきましょう。また、いつか行政書士として独立開業する気持ちがあるのであれば、必ず「いつ独立開業するか」を明確にしておきましょう。「どこかのタイミングで独立開業できればいい」といった曖昧な感じでは、雇用される行政書士事務所にも自分のためにもならないはずです。