開業したての頃、「困ったらなんでも聞いて!」という言葉を信じてくれた方が事務所に訪ねてきてくれました。お話を聞いていると「どうも行政書士の業務として受任できそうにないな」という雰囲気に・・・そもそも、行政書士はどのような相談を業務として受けることができるのでしょうか?
この記事では、行政書士が行える相談が何か、そして、実際に、どのように進めていくか、について説明します。
行政書士が行える相談
行政書士である私たちは、「行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること」を報酬を受けて業として行うことができます(行政書士法第1条の3第1項第4号,第1条の2)。「行政書士が作成することができる書類」というのは、官公署に提出する書類と権利義務・事実証明に関する書類のことを指します。
逆にいえば、行政書士が作成できない書類についての相談を、報酬を受け業務として受けることはできない、ということになります。例えば、建設業許可申請書類の作成は、行政書士が申請者に代わって作成することができます。したがって、建設業許可申請書類の作成に関する相談であれば、受けることができるのです。
受任後はもちろんですが、実際に、申請書類作成業務の受任前に、相談のみを行うこともできます。つまり、許可要件該当性を概観して、結局、人的要件(資格者がいない等)を満たしていないと分かった場合、受任できないとなったとしても、その相談料を正当に請求することが可能です(もちろん相談料についてはお客様にアポイントメントの際に説明しておくべきですが)。
他の法律に規制がない、経営相談や人生相談は、行政書士としてではなく、個人事業者として受けることは可能です。
相談時の注意点
官公署に提出する書類の作成であっても、「他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができ」ません。
例えば、弁護士の活動の場の中心となる裁判所は、国・地方公共団体の機関ですので、紛れもなく「官公署」です。しかし、裁判所への書類の作成は、弁護士や司法書士の業務となります。裁判所という官公署に提出する書類を行政書士は作ることができません。
それは、弁護士法72条等による禁止規定があるためです。つまり、争いのある案件については業務として触れることができないのです(事件性必要説)。したがって、争いが生じる可能性が極めて強い場合は、具体的な相談前の問い合わせ時点で、弁護士へのバトンタッチを考えるべきです。
法務局も官公署ですが、司法書士の独占業務である登記業務(商業・不動産)に関しても同様に行うことができません。もっとも、同じ法務局に提出する書類でも、帰化許可申請書に関しては、行政書士業務として行うことができます。
また、いうまでもありませんが、不動産に関するからといって書類作成ができないのではありません。不動産売買契約書や不動産が遺産として記載される遺産分割協議書は行政書士業務である「権利義務に関する書類」作成として可能ですから、その相談ももちろんできます。ただし、遺産分割協議書の作成だとしても紛争性がある場合は、弁護士法72条の関係で業務を行うことはできません。
税金についての話題は、相続に関係してよく登場します。ここで税理士法との関係が問題になります。税務署は、官公署ですが、税務申告のための書類を作成することは行政書士にはできません。さらに、どこにも「有償で」とは書いていませんから、仮に無償であっても、相談を受けることはできません。
他にも、社会保険労務士、弁理士、海事代理士などの他士業者が独占業務とする業務に気を付けるようにします。
相談の進め方
①問い合わせ
電話・メール・SNS・対面で、問い合わせがきますが、この時お客様は、「◯◯許可の取得をしたいのですが」というように、何らかの許認可の存在を知っていることが多くあります。
私の場合は、問い合わせを受けてすぐ、許認可申請までのフローチャート・料金表・同意書(行政書士業務委託モデル契約書を簡素化し、特筆事項を追加したもの)を提示しています。
②相談日 場所を決める 持参書類を伝える
初回の相談を、上記問い合わせ時に行ってしまうこともあります、経験がある業務で、行うべき許可申請も確定している場合には、着手金について案内を行うことがあります。
別日を設ける場合には、日程を調整し、実際に対面する場合は、場所を調整します(このコロナ禍では、対面と言っても各種サービスを使ってビデオ通話することが多いです)。
私の場合は、事前に、持参していただきたい書類リストをメール等で送っています(記載の書類全て揃ったら連絡をお願いします、とお伝えすることもあります)。
③事前準備 要件等確認 ヒアリングシート準備など
ヒアリングシートがあると、会議の「次第」のように進行の道筋となります。要件を基本に項目立てをして、作成しておくのが良いでしょう。許可申請の種類が分岐する場合には、特に注意が必要です。
④面会
a本人確認
まず、本人確認をしましょう。
犯罪収益移転防止法によれば、特定取引を行う場合には義務となりますが、業務受任前には、本人確認はすべきです。
bヒアリング
用意したシートをもとにヒアリングを進めていきます。
c事実の整理
「お客様は、何を求めているのか」をテーマに、受任すべき手続きを確定させていきます。一応、問い合わせ時に手続きの大きな区分は齟齬がないものの、さらに細かい区分を確定させなければならないものもあります。
例えば、建設業許可申請では、新規大臣許可なのか知事許可なのか、一般許可なのか特定許可なのか、そもそもどの工事についての許可なのか等、組み合わせを明らかにしなければなりません。
d要件や手続の説明
事実の整理と並行して、手続きの概要を説明し、また、要件のチェックをしていくなかで、受任すべきか、すべきでないかの判断も合わせて行います。
eクロージング
(1)タイミング
概ね、相談は30分から60分と思いますが、まず要件を満たしていないと判断できるときには、要件を満たすためにできる対策を提案した上で、クロージングとなると思います。
「行政書士は、正当な事由がある場合において依頼を拒むときは、その事由を説明しなければならない。この場合において依頼人から請求があるときは、その事由を記載した文書を交付しなければならない。」(行政書士法施行規則第8条)と定められていますので、必要に応じて、その理由を説明しなければなりません。(依頼拒否に際する書面のフォーマットは、行政書士開業書式セット集などをご参考ください)
(2)依頼の意思を確認・プランの選択肢を与える
要件を満たすと判断でき、書類の作成ができる場合には、お客様の依頼の意思を確認してください。また、プランの提示をするのも親切でしょう。
f相談料の受領(領収証発行)
お客様によっては、最初から、相談のみをお願いするケースもあります。私は、基本的に、初回相談は無料としていますが、在留資格に関する相談など、ケースによっては初回から有料で行うことがあります。
また、繰り返し、相談がある場合には、顧問契約をお勧めしています。
多くの場合、依頼をするつもりだったものの、要件を満たさないというケースに、相談料のみを頂戴するということになります。
⑤委任契約締結
いよいよ契約の段階です。私は、「行政書士業務委託契約書」のほか重要事項説明書としての「同意書」へ署名をいただきます。
特にトラブルのもととなりやすい、不許可になった場合の処理や、提出された書類が真正のものであるという宣誓、そして、どこまでをこの契約で受任するのかを明確にしましょう。
まとめ
以上のように、行政書士が行うことのできる相談業務は、私たちが作成できる書類についての相談です。また、他士業法によって、無償であっても、相談を受けることはできない、との規定がある場合がありますので、注意が必要です。
これからの行政書士は、申請書作成の手順についての相談だけでなく、特定の要件に係る項目について、許可の確率が上がる方策を示すことは当然大事になってきます。補助金等の申請では、まさに、コンサル力が必要とされる分野です。日々の研鑽を怠らず、日々新しい知識を身につけていけたらいいですね。