新人行政書士の実務入門-建設業許可の実務

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新人行政書士の実務入門-建設業許可の実務

行政書士の業務で最もイメージされるのは建設業許可申請ではないでしょうか。

この記事では、業務未経験の新人行政書士さん向けに、建設業許可の実務について説明します。

建設業許可の実務について

建設業許可は、一定規模の建築工事や土木工事を請け負う業者が取得しなくてはならない許可です(建設業法第3条)。この許可を取得せずに一定規模の建設工事を行うと建設業法違反として3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されます(建設業法第47条)。

行政書士は、官公署に提出する書類の作成を業としています(行政書士法第1条の2)。そして、建設業者さんを代理して申請を行うこともできます(行政書士法第1条の3)。

建設業許可の申請書類作成は、複雑で専門的な知識が必要となります。現場に出ている忙しい建設業者さんからすれば、書類作成や役所への提出行為はできれば行いたくないことです。そこで登場するのが行政書士です。建設業者さんは、建設業許可申請を行政書士に外注化(丸投げ)することができ、本業に集中することができます。

よくあるパターンとして、小さな工事を請け負う一人親方の職人さんが10年経って建設業許可を取得し、大きな工事を請け負うなどがあります。

行政書士に依頼する建設業者さんは、小さな規模の会社や個人事業主が多いです。職人さんは書類の作成が苦手なことが多く、行政書士は手続をサポートすることでお役に立つことができます。

行政書士の報酬

建設業許可申請の報酬の目安ですが、日本行政書士会連合会公表報酬額統計(平成27年度)の平均額と最頻値(最も多い報酬額)で紹介します。報酬は、行政へ支払う手数料を除いた額です。通常は、行政への申請手数料、郵送費、証明書交付手数料等は、実費として請求します。

申請 形態 種類 報 酬
平均額
報 酬
最頻値※
建設業許可申請 新規 個人 知事 118,204円 100,000円
建設業許可申請 更新 個人 知事 62,939円 50,000円
建設業許可申請 新規 法人 知事 138,779円 150,000円
建設業許可申請 更新 法人 知事 74,230円 54,000円
建設業許可申請 新規 法人 大臣 192,155円 150,000円
建設業許可申請 更新 法人 大臣 112,299円 100,000円
建設業許可申請 業種追加 72,639円 50,000円
建設業変更届出(事業年度終了) 知事 42,170円 32,400円
建設業変更届出(事業年度終了) 大臣 62,244円 43,200円

※最頻値:最も回答の多かった報酬額

引用:平成27年度行政書士報酬統計

こちらの報酬をベースにして報酬額を決定するといいと思います。インターネットで集客をする行政書士事務所さんだと、かなり安い報酬を設定しているところもあります。あまり参考にはせずに、価格以外の面で優位に立てるように準備をするようにしましょう。建設業許可の手引きを読み込んでいるだけでもかなりの知識量となります。業務経験のないうちは、知識量で補うようにしましょう。

この他、建設業許可申請(新規・知事)は、申請手数料90,000円(更新・知事は50,000円)を都道府県へ支払います。建設業許可申請(新規・大臣)は、申請手数料150,000円(更新・大臣は50,000円)を国へ支払います。

依頼者さんには、申請手数料と報酬が別であることを理解させて請求しましょう。それと、個人事業主から法人化(法人成り)を考えている業者さんであれば、会社設立業務も同時に受任することができます。建設業者さんからすれば、行政への手続きを丸投げすることができ利便性が高いといえるでしょう。

メインターゲット

近年、公共工事の削減、若者の職人不足などがあり、建設業者数は減少傾向にあります。平成31年3月末時点で、建設業許可業者数は468,311業者となります。ピーク時の平成12年3月末時点と比較すると、132,669業者(-22.1%)の減少となります。

平成30年4月から平成31年3月までの新規許可取得業者は、16,242業者となります。一方、廃業や失効した業者は12,823業者となります。

大手ゼネコンなどについては、法務部門等を抱えており、建設業許可の管理は自社で行うのが通常です。中小企業や個人事業者については、自身で行うか行政書士へ外注していることが多いです。つまり、行政書士の建設業許可業務のメインターゲットは、中小企業と個人事業者(一人親方など)と言えるでしょう。

建設業許可業者数推移

建設業許可を受任する方法

建設業許可の基本を知る

許認可業務全般に言えることですが、まずは要件を理解することが大切です。これは、建設業許可も同様です。

専門用語を知る

要件を理解するには、用語の意味を知る必要がございます。自身の申請では、通常、要件から確認すると思いますが、今回は行政書士が業務として建設業許可業務を覚えるという視点ですから、やはり用語を押さえるようにしましょう。

まずは建設業法第2条に規定された定義から確認します。

建設業法第2条(定義)
この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
2 この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
3 この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
5 この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。

建設業とはなんですか?建設工事ってなんですか?元請負人と下請負人の違いはなんですか?これらについて中学生でもわかる言葉で説明できるようにしておきましょう。

また、請負契約とは何かも理解しなくてはなりません。民法で確認すると請負について確認すると、目的物の完成を約すること必要です。そのため、職人が応援に行くいわゆる人工出しは請負にならないので注意しましょう。

民法第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

このことが分かっていないと、建設業許可の要件である経験年数を立証する際に、請負契約でない人工出しの書類を経験有りと判断することになります。

ただし、人工出しの内容により、経験として認められる都道府県もあります。これは、都道府県ごとのローカルルールとなります。これらを蓄積るうことがいわゆる事務所のノウハウと言えるでしょう。このようなノウハウは事務所の資産になるように管理しましょう。事務所のノウハウは簡単に教えてはいけません。

業種区分

基本用語を覚えたら業種区分について確認します。依頼者の工事内容を聞いてどの業種に該当するかを判断できるレベルを目指します。

詳細は、国土交通省の資料「建設業業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方」でご確認ください。

  1. 土木一式工事
  2. 建築一式工事
  3. 大工工事
  4. 左官工事
  5. とび・土木・コンクリート工事
  6. 石工事
  7. 屋根工事
  8. 電気工事
  9. 管工事
  10. タイル・れんが・ブロック工事
  11. 鋼構造物工事
  12. 鉄筋工事
  13. 舗装工事
  14. しゅんせつ工事
  15. 板金工事
  16. ガラス工事
  17. 塗装工事
  18. 防水工事
  19. 内装仕上工事
  20. 機械器具設置工事
  21. 熱絶縁工事
  22. 電気通信工事
  23. 造園工事
  24. さく井工事
  25. 建具工事
  26. 水道施設工事
  27. 消防施設工事
  28. 清掃施設工事
  29. 解体工事

軽微な建設工事

建設業許可の取得が必要な業者については、建設業法および建設業法施行令に規定されており、軽微な建設工事以外の業者は建設業許可を取得することになっています。では、軽微な建設工事とは何でしょうか?軽微な建設工事については、建設業法施行令に規定されています。

建設業法施行令第1条の2第1項(法第三条第一項ただし書の軽微な建設工事)
法第3条第1項ただし書の政令で定める軽微な建設工事は、工事一件の請負代金の額が建築一式工事にあつては千五百万円に満たない工事又は延べ面積が百五十平方メートルに満たない木造住宅工事、建築一式工事以外の建設工事にあつては五百万円に満たない工事とする。

つまり、軽微な工事とは、

  • 建築一式工事・・・1500万円未満(消費税込)の工事 or 延べ面積150平方メートル未満の木造住宅工事
  • それ以外の工事・・・500万円未満(消費税込)の工事

となります。軽微な工事のみおこなう建設工事を行う業者は建設業許可はいらないということになります。

逆に、軽微な建設工事以外の工事をやるには、建設業許可が必要となるということです。

なんだ、金額で判断できるから簡単じゃんと思った方、そんなに甘くないのがこの業務です。

このようなケースが考えられます。

  1. 材料を注文者や元請から提供してもらっている。この場合、材料費を含んだ金額が工事の金額となる。
  2. 500万円未満になるように分割して工事を請けている。この場合、分割工事を合算した金額で判断されます。
  3. 工事の業種が書いてあるが内訳をみると複数の業種にまたがる。

これらの事例があった場合の判断として、

  1. 材料費を含めて金額を算出した金額となります。
  2. 分割した工事を合算した金額で判断されます。
  3. 業種ごとで金額を分散して判断します。

建設業許可は工事の業種ごとに必要なため、建設業許可業者であっても、軽微な工事かの判断には気をつけなくてはなりません。

建設業許可の要件

建設業許可を取得するための要件は以下となります。

  1. 経営業務の管理責任者
  2. 専任技術者
  3. 誠実性
  4. 財産的基礎等
  5. 欠格要件

これらの要件を申請書類で立証していくことになります。

要件の詳細は国土交通省ホームページ 建設業許可の要件をご覧ください。

建設業許可の実務処理の準備

手続きを学ぶ

自身の事務所が所在地を管轄する都道府県の建設業許可の手引きを探します。

インターネットで「●●県 建設業許可 手引き」とGoogle検索すれば見つかります。建設業許可は、法律で定められた許認可ですが、都道府県によりローカルルール設定されていることがあります。まずは自身の都道府県の手引きをご覧ください。これらはすべて無料で、パソコンでいつでも見ることができます。

例えば、以下が手引きが掲載されているホームページとなります。

残念ながら管轄の都道府県の手引きが分かりにくい場合は、他の都道府県の手引きを見ましょう。わかりやすい手引きで全体を把握し、その後に管轄の都道府県の手引きを見てローカルルールを確認するといいでしょう。

財務諸表の作成

建設業許可申請書類には財務諸表の作成があります。会社さんが持っている決算書(通常は税理士さんが作ってます。)を、建設業用の決算書(財務諸表)に変換する作業です。会計用語になじみがないと最初は苦労するかもしれません。

経営状況分析機関のワイズ公共データシステムの財務諸表の作成のしかたはとても参考になります。こちらのマニュアルは、財務上の決算科目と建設業財務諸表の科目の対比があるのでわかりやすいです。

また、新人行政書士であれば、ワイズ公共データシステムのソフトを無料で利用できるため、導入を検討してもいいと思います。

受任のための書類

問い合わせが来た際の書類を準備します。最低でも、要件確認ヒアリングシート、見積書、委任契約書は準備しましょう。余裕があれば、依頼者へ渡す必要書類の案内書、手続きの流れを記載した書面を準備しましょう。

これらの書類が無いと受任につながらないおそれがあります。相談者がバタバタしている行政書士を見て、安心して業務を依頼するとは思えません。相談から受任までの流れを想定し、必要な書類を準備しましょう。

営業

業務の知識と受任のための書類が準備できたらいよいよ営業活動です。

業務は受任してから学べばよいと言う方もいますが、あまりオススメしません。たしかに、新しい許認可や補助金の依頼であれば受任してから調べてもいいと思います。しかし、建設業許可については、競合事務所が多くあり、インターネットでもそれなりの情報が掲載されています。ある程度の基礎知識がなければ、相談にも対応できませんし、自分自身も焦ってしまいます。相談者への最低限のマナーと考え、基本的な知識は事前に学ぶようにしましょう(基礎知識は1日で学べます。)。

営業方法はたくさんありますが、代表的な営業方法を紹介します。

ホームページ・ブログでの宣伝

ホームページがあれば自身の取扱業務に記載しておきます。専門のホームページを制作して集客したり、インターネット広告を活用するのもいいでしょう。

予算の関係もあるので、建設業許可一本でやる予定でなければ、事務所ホームページの取り扱い業務に掲載することから始めましょう。

知人や対面の営業

知り合いに建設業許可を取り扱っていることを知らせます。建設業許可業務を扱っていることを知ってもらわなければ依頼は来ないのです。まずは自分が何ができるかを知ってもらうことから始めましょう。

他士業者からの紹介の可能性もあるので、ぜひ業務案内はしておきましょう。司法書士、税理士、社会保険労務士は、行政書士との連携が欠かせない士業です。自身の事務所紹介を兼ねて、ぜひ挨拶をしておきましょう。その際は、相手の事務所のお話も忘れずに聞いてあげてください。今後、提携して業務をすることも考えられます。

いろいろな方と名刺交換をする際は、自分が何をできるのかを知ってもらうようにしましょう。名刺には「建設業許可専門」、他の業務も扱いたい場合は「各種許認可申請(建設業許可、宅建業免許等)」のように記載するのもいいでしょう。

対面での営業は、営業というよりは自己紹介という発想がいいと思います。自分が何者で何ができるのかを相手に知ってもらい、相手は何ができる人で何を必要としているのかを知る。

チラシ・DM

チラシを作成し、DMで発送する方法です。

チラシは、アスクルのチラシ作成であれば、カラーのチラシを安価に制作することができます。

DMの発送先は国土交通省建設業者企業情報検索システムで、営業エリアの業者をリストアアップし、建設業許可更新申請の案内をするというのもありです。

補助金や助成金、建設業法の改正などの情報を入れるのもいいと思います。

名簿は営業でなくてはならない情報です。無料で手に入るので、ぜひ活用しましょう。

SNS

最近では、facebook、twitterなどを活用した営業もあります。

使い方としては、やはり自分が何をやっているかを知ってもらうということです。

自分の業務と関連した情報を発信していれば、その道の専門家と思われ、紹介や依頼がくることになります。自身のブランディングと言えるでしょう。

ただし、SNSはマナーが大切であり、マナー違反を犯すと逆効果となりますので、慣れるまでは注意して利用するようにしましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

建設業許可は、日本の社会インフラを担う建設業者をサポートする業務であり、やりがいのある業務です。建設業許可業務は電子申請化へ移行が進んでおり、業務処理の転換期と言えるでしょう。

しかし、どんなにテクノロジーが発展しても、基本は法律に基づいた手続きを行うことです。建設業法令を学び、その専門知識を活かして業務を行う。

そのようなプロフェッショナルこそこれらの時代に必要とされる行政書士であると言えます。一朝一夕にはいきませんが、がんばりましょう。

鈴木 篤

特定行政書士。合同会社法テック代表社員の鈴木です。実務のスペシャリストの行政書士を育てることが日本社会の発展に貢献するとの思いから行政書士カレッジを運営しています。

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